早期退職が2.5倍に増えた。でも、募集した会社の約7割は黒字だった
早期退職についての記事を読んだ。2025年度の早期・希望退職は2万781人で、前年度の約2.5倍だという。
昨日はFIREが増えるとインフレになる、という話を書いた。その流れで「早く辞めたい人が本当に増えているんだな」と思って調べたら、中身がだいぶ違った。
1. 増えているのは事実だった
まず数字から。東京商工リサーチの調査だ。
人数 2万781人(前年度は8,326人)
→ 約2.5倍。2009年度以降で4番目の高さ
2.5倍というのは、かなりの増え方だ。辞めたい人が増えたのだろうと、わたしは思った。
2. でも、募集した会社の約7割は黒字だった
ここで引っかかった。
パナソニックHD、三菱電機、三菱ケミカル、シャープなど
→ 「黒字リストラ」と呼ばれている
多くは、業績が悪くて人を減らしたのではない。むしろ堅調な会社が、先回りして人員の構成を変えにいっている。
なぜ黒字なのに募集するのか。調査では理由も挙げられていた。
製造業は競争力の強化が急務になっている
生成AIを組織的に使う大企業が59.1%。事務職や管理職が対象になる動きも懸念されている
→ 将来の事業転換や人員構成を見越して、早めに動いている
余力があるうちに動いている、ということらしい。
つまりこの2万781人は、「辞めたい人が増えた」の数字ではなかった。会社が募集をかけた数だ。
3. 辞めた側は、どう思っているのか
では、実際に辞めた人はどう感じているのか。週刊プレイボーイが50代の早期退職経験者300人に聞いた調査があった。
8割以上が後悔していない。思っていたより、ずっと多い。
ただし、同じ調査に別の数字もあった。
ほぼ強制的に退職を促された 16.3%
いまフルタイムで働いている 51.7%
準備が足りなかったと感じている 約3割
フルタイムで働いているのは、半分ほどだった。そして6人に1人は、自分で選んだわけではない。
退職金も、思っていたより少なかった。500万円未満が20.3%、1,000万円未満が41.3%。
4. 記事に出ていた、ひとつの例
記事で紹介されていた例が、具体的だった。
退職金と貯金は約3,000万円。スクールに50万円を投じた
地方公務員に応募したが、8回とも決まらなかった
→ いまは清掃の仕事をしながら、9月から元の職場に再雇用される
お金がなかったわけではない。3,000万円あって、学び直しにもお金を使っている。
それでも、次の仕事が決まらなかった。
記事のなかでは、次が決まった人の共通点も挙げられていた。自分の仕事の延長線上に、次の仕事を描けるかどうか。そして年齢が若いほど、方向を変えやすい。
5. 昨日書いたことと、つながっていた
ここで、昨日の記事を思い出した。
元日銀のエコノミスト河田皓史さんが、FIREが増えるとインフレになるという話のなかで、処方箋を2つ挙げていた。そのひとつがこれだった。
辞めたあとも「働こうと思えば働ける」状態を保つ。組織に頼らない、持ち運べる尖った技能のほうが戻りやすい
6. わたしは、職を変えなかった
自分に返ってみる。
わたしも会社を辞めている。2023年3月に映像制作会社を辞めて、フリーランスになった。
でも、早期退職ではなかった。会社の募集に応じたのではなく、自分から辞めた。
探したのは、次の職ではなかった。映像プロデューサーという仕事は、会社を離れても中身が変わらない。職を変えずに、働き方だけを変えたことになる。
前の会社は、いまもお客様として発注してくれている。もっとも収入がゼロの時期は経験しているので、最初から順調だったわけではない。
たまたま、職種がそうだっただけだ。映像の業界はフリーランスが多くて、先に独立した先輩が何人もいた。やり方も、収入の感じも、聞けば教えてもらえた。
次の仕事が描けたのは、描いている人が見えていたからでもある。
7. お金の準備は、あとから効いてくる
もうひとつ、記事を読んで思ったこと。
わたしが辞めたときの資産は約2,000万円だった。退職金も受け取っているので、その額を含めた総額だ。
辞める前の3年で、ここを増やしていた。2020年ごろは約1,000万円で、そこから会社員のまま積み上げて、2023年3月に約2,000万円になっていた。
これは次の仕事が決まらなくても、しばらく食べられるという意味だ。焦って条件の悪い仕事を受けなくて済む。
でも、決まるまでの時間は買える
→ 焦って決めなくて済むのが、いちばん効く
記事の例では、3,000万円あっても8回とも決まらなかった。お金があっても、仕事は決まらない。
でも逆に、お金がなければ8回も受けられない。1回目で決めるしかなくなる。
8. 2日続けて、同じところに来た
2日続けて、同じところに来た。
昨日は、エコノミストがインフレにいちばん強い資産は、働いて賃金を得る能力だと言っていた。今日は、その実例だった。
片方は理屈で、片方は実例だ。でも指しているものは同じだった。
自分が働けること。もっと言えば、その働きに需要があること。
働けるだけでは、資産にならない。8回とも決まらなかった方は、働く意思も体力もあった。足りなかったのは、必要とされる場所のほうだった。
バークシャー・ハサウェイの株主総会で、ウォーレン・バフェットがインフレへの備えを聞かれて、こう答えている。
自分自身を育てるものだ。
しかも、それには税金がかからない
ウォーレン・バフェット(2022年 バークシャー・ハサウェイ株主総会)
自分が持っている能力は、誰にも奪われない。インフレでも目減りしない、というのが理由だった。同じ場でこうも言っている。町でいちばんの医者、いちばんの教師、いちばんの営業なら、通貨がどうなろうとうまくやっていける。
働ける力には金額がつけられないので、毎月の資産報告には1円も出てこない。それでも、資産の額より効く場面がある。
わたしはサイドFIREなので、いまも映像の仕事をしている。辞めたのは会社であって、働くことではない。
9. まとめ
- 2025年度の早期・希望退職は46社・2万781人で、前年度8,326人の約2.5倍(東京商工リサーチ)
- ただし募集した会社の約7割は黒字だった。この2万781人は「辞めたい人が増えた」ではなく「会社が募集をかけた」数字だった
- 黒字でも募集する理由は、将来性の乏しい事業の見直しと新規事業への進出。生成AIを組織的に使う大企業が59.1%あり、事務職や管理職が対象になる動きも懸念されている
- 辞めた側の調査(50代・300人)では後悔していないが82.7%。ただしほぼ強制的に促された人が16.3%、フルタイムで働けているのは51.7%
- 記事に出ていた例では、53歳で退職し3,000万円と学び直し50万円を使っても、地方公務員の採用は8回とも決まらなかった
- 共通点として挙げられていたのは「自分の仕事の延長線上に、次の仕事を描けるか」。昨日書いた処方箋「組織に頼らない、持ち運べる尖った技能」と同じことを言っている
- わたしも会社を辞めているが、探したのは次の職ではなかった。映像の仕事は会社を離れても中身が変わらない。ただし業界にフリーランスの先輩が多かっただけで、収入がゼロの時期も経験している
- 辞めたときの資産は約2,000万円(退職金を含む)。お金は次の仕事を連れてきてくれないが、決まるまでの時間は買える
- 働けるだけでは、資産にならない。その働きに需要があることまで揃って、はじめて資産になる。バフェットも「いちばんの投資は、自分自身を育てるものだ」と言っていた
・辞めた人の実例と、次が決まった人の共通点:ABEMA TIMES「『早期退職』も…第二の人生は甘くない? 『孤独感に苛まれる』リタイアがうまくいく人・いかない人の"決定的な差"」(2026年8月16日)
・バフェットの発言(2022年4月30日のバークシャー・ハサウェイ株主総会):CNBC(英語)/Business Insider Japan(原文は "The best investment by far is anything that develops yourself, and it's not taxed at all."、"Whatever abilities you have can't be taken away from you."、"If you're the best doctor in town, if you're the best teacher in town, if you're the best salesman in town, you'll do well no matter what the currency does.")
・50代300人へのアンケート(後悔・再就職・退職金):週プレNEWS「独自アンケートで経験者の明暗を徹底深掘り『早期退職』の光と影」(2026年7月24日)
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